研究活動

翻訳スタジオ

私たちのゼミでは、英語で書かれた作品を翻訳するプロジェクト「翻訳スタジオ」という取り組みを行っています。

作品はゼミ生が提案し、一年間かけて翻訳や編集を行い、英語力や英語圏の文化の理解を深めています。




【2024年度実績】

イーディス・ウォートン(Edith Wharton)著「トレーム夫人」

原題:"Madame de Treymes"

 

  19世紀から20世紀にわたって活躍したニューヨーク出身の作家イーディス・ウォートン(1862〜1937)が書いた作品です。彼女の代表作の一つには『無垢の時代』 原題:The Age of Innocence  (1920)があり、マーティン・スコセッシが監督した1993年公開の映画『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』の原作となっています。

 「トレーム夫人」は1907年に発表された10のセクションからなる中編です。 まだ邦訳が出版されていないため、作品の内容を一から調べながら翻訳に取り組みました。ニューヨーク出身のジョン・ダーラムは、フランス貴族と結婚した幼馴染のファニーと再会し、二人は互いを思い合うようになります。 ファニーの結婚生活は、夫に問題があるためにうまくいっておらず、婚家の承認を得て長く別居を続けていますが、息子のこともあり、なかなか離婚に踏み切ることができません。歴史と宗教に支えられた揺るぎないフランス社会の中で、個人を尊重するアメリカ人が経験する葛藤を描いた物語です。




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最初の 5 セクションの文をここから読むことができます。



【2022/3年度完成作品】

ケイト・ショパン(Kate Chopin)著 


(1)「解放:生きることの寓話」("Emancipation: A Life Fable")


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日本語翻訳→原典の順番で全文を閲覧できます。


全文で430ワードしかない「寓話」です。 生まれた時から檻に閉じ込められている以外は何不自由なく生きていた動物が、ふと扉が開いていることに気づきます。 最初は恐れて檻の中に留まっていますが、ある日、勇気を出して外に出ます。はじめて自由を経験したその動物は、もう檻の中には戻ることはありませんでした。原文では、この動物はheという代名詞で受けられています。文章全体を読み進めていく過程で、この檻に閉じ込められていた動物は「女性」の比喩ではないかという意見がありました。そこで、heを「その動物」と訳し、読者に解釈の余地を残しました。


(2)「一時間の物語」("The Story of an Hour")



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バイリンガル版で全文を閲覧できます。


ある春の日、ルイーズ・マラードのもとに、夫が鉄道事故で亡くなったという知らせが届きます。心臓の病を抱える彼女に配慮しながら、家族は慎重にその知らせを伝えます。最初は悲しみにくれるルイーズでしたが、やがて彼女の内面には思いがけない感情が芽生え始めます。それは「自由」という解放感でした。たった一時間のあいだに、抑圧と希望、喜びと絶望が入り混じるルイーズの心の動きは、読者を深く揺さぶります。そして最後の一行で、物語は衝撃的な転調を迎えます。短いながらも、女性の内なる自由への希求と社会的制約のはざまを鮮烈に描いた作品です。



(3)「ライラック」("Lilacs")


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日本語翻訳→原典の順番で全文を閲覧できます。


毎年春になると、パリで暮らすアドリエンヌ は、かつて少女時代を過ごした修道院を訪れます。彼女を迎える修道女たちの中でも、シスター・アガトはひときわアドリエンヌの訪問を待ち望んでいます。しかし、時が経つにつれ、修道院の態度は変わり、ある年、アドリエンヌはついに門前で訪問を拒まれてしまいます。彼女が持ってきた大きなライラックの花束から落ちた花びらすら片付けられてしまうのでした。ケイト・ショパンが描く女性同士の深い情愛と制度的排除の物語です。


《ケイト・ショパンについて》



1894年のショパン、ウィキメディア・コモンズより(パブリックドメイン)


1850年、アメリカ中西部のミズーリ州セントルイス生まれ。 アイルランド系の父と、南部のルイジアナに移民として渡ったフランス系の人々の子孫であるクレオール系の母とのあいだに生まれた。 オスカー・ショパンと結婚してニューオーリンズに住み、6人の子どもを出産する。夫と死別後、作家として順調に活躍しはじめていたが、1899年に中編小説『目覚め』(The Awakening)を発表した際、女性の性の目覚めを正面から注目した小説である点が当時の人々に受け入れられず、物議を醸した。